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(書評)
地域の歴史文化サークル「伊勢の國・松阪十楽」は、ゼミ、講演会を数多く開催し、それを「十楽選 よむゼミ」として刊行し、本書が14冊目になる。本書は、松阪市の松浦武四郎記念館の学芸員である山本命氏が、今年(2007年)5回にわたって講演した内容に補足、追加等を行って刊行されたものである。講演テープを起こして作成されただけあって、読んでいると、文章が講演を聞いているようにリズミカルでスムーズに感じる。本文71頁の小冊子であるが、読みやすく、格好の松浦武四郎入門書であると思われる。
本書では、松浦武四郎の生涯にわたる生き様、足跡が述べられている。特に、武四郎が蝦夷地調査で道案内などで世話になったアイヌの人々の異文化に触れて、その良き理解者として、それらを克明に書画によって記録したこと、その一方、わずかな期間に人口が半減するようなアイヌの窮状と、その原因となった松前藩のアイヌに対する過酷な政策などをあばき、訴えるなどの行動をとったことなどが述べられており、武四郎の人間性に焦点が当てられている。
この本を読むと、松浦武四郎は少年の頃から好奇心に満ちた実行力のある性格であったが、家を出てから各地の山野、寺社、人びとを巡り、その厳しく苦しい旅路で心身が鍛えられ、また、旅路で多くの人びとの温情を受けつつ交流し、やさしい心情も養われたと思われる。そして、その間に、人々の生活、土地の文化などを直視し尊重する目と心も鍛えられ、記録として残す技量も磨かれたであろう。そうしたことが、蝦夷地に渡ってからの武四郎のアイヌ民族に対する見方や実践に色濃く反映しているものと思われる。
松浦武四郎は、十代の頃から文章を書き、絵を描く才能があったことが、本書に掲載された資料からも窺えるが、この才能はアイヌの人びとの風俗、日常品、踊り、アイヌ語の地名を詳細に書き入れた地図の作成などに遺憾なく発揮され、このことによって多くが貴重な資料として残り、民俗学的にも非常に貴重な資料となっている。武四郎が、探査の後に必ず旅日誌として木版画による出版をしたことが、後世に記録が残る元となった。本書には、口絵をはじめとして、書画の写真が多く掲載されており、興味深く見ることが出来る。
本書には、晩年の松浦武四郎についても描かれており、勾玉など多くの骨董品の収集、柱や梁などの用材を全て全国の友人から寄贈されたもので造った「一畳敷き」の書斎、最晩年の大台が原探査などについても述べられていて、武四郎の人となりの一端がうかがえて面白い。
巻末には、6回にわたる蝦夷地調査の行程図、「一畳敷き」の来歴と用材一覧、松浦武四郎略年表が付いていて、松浦武四郎を理解する上で参考となる。また、「松浦武四郎について詳しく知りたい方へ」には、参考となる代表的な本のリストが掲載されており、松浦武四郎について調査研究したい人には有り難い情報となろう。
なお、本書は、三重県内の一部の書店に置かれているものの入手しにくい。松浦武四郎記念館に問い合わせれば購入することができる。(2007.9.26/M.M.)